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第1章 第5話 日本人

ผู้เขียน: 森村征爾
last update วันที่เผยแพร่: 2026-08-31 10:55:14

研修所には、日本人のスタッフも何人かいた。そのほとんどは親切だったが、中には違う人もいる。

清掃を担当していた中年の男性スタッフは私たち実習生とすれ違うたびに、聞こえよがしに舌打ちをした。

ある日、廊下でモップを持って歩いていたその人にぶつかりそうになり慌てて謝ると彼は鼻で笑っていた。

「外国人は、ろくに歩き方も知らないのか」

言葉の意味は正確には分からなかった。でも彼の表情と声のトーンで馬鹿にされていることだけは分かった。

何も言い返せなかった…。

返す日本語がまだわからないからだ。

ただ、頭を下げてその場を離れるしかなかった。

夜、アンジェにその話をすると、彼女は顔をしかめる。

「私も似たようなこと言われたことある。この前、掃除のおばさんに『ちゃんと日本語勉強しなさいよ』って、すごく上から言われた」

「悔しいね」

「うん。悔しい。でも、言い返せない」

私たちは、その悔しさを言葉にすることしかできない。

けれど翌日、廊下で同じ男性スタッフとすれ違ったとき田中教官がその様子を見ていたらしい。

「あなた、実習生に何か言った?」

「いえ、別に」

「もう一度同じことをしたら、上に報告します」

田中教官の毅然とした態度に少しだけ救われた気持ちになれた。

この国には意地悪な人もいるが味方になってくれる人もいる。

そのことを初めて実感した日であった。

研修も後半に差し掛かった頃、実習生の間に亀裂が生まれ始める。

同じ班にいたベトナム人の実習生、ヤンと、フィリピン人の実習生の何人かの間で、些細な言い争いが起きた。きっかけは、日本語の発音練習のペアを誰と組むかという本当に些細なことだ。

「なんでいつも私たちだけ組まされるの」

ヤンの言葉に班にいたフィリピン人の実習生の一人が反発した。

「別に、そっちが嫌だって言ったんでしょ」

小さな言い合いは次第に感情的になっていった。

その場に居合わせながら、どちらの側にもつけず…。

ただ黙って見ていることしかできない。

アンジェは違う。

彼女は間に入り両方をなだめようとし、

「二人とも、落ち着いて。ここで喧嘩しても、何も変わらないよ」

二人は一旦口を閉じたが、空気はぎこちないまま。

その夜、部屋に戻ったアンジェは疲れた顔をしながら、

「疲れたね、ああいうの」

「うん。私、何も言えなかった」

「マリアは、いいと思うよ。無理に間に入らなくても」

「でも、アンジェは入ったじゃない」

「私は、性格の問題。マリアはマリアのやり方でいいの」

アンジェの言葉に力が抜けた。

けれど、ヤンとの間にできた気まずさは、それからしばらく続いた。同じ場所で同じ言葉も文化も持たない者同士でさえ簡単には分かり合えないのだと思う。

一か月の研修が終わろうとしていた

最終日、実習生たちは一人ずつ、田中教官の前で介護技術の実技試験を受ける。

自分の番が来たとき、手が震えている…。

練習してきた通りに目の前の「利用者役」の職員の身体をよく見て、声をかけながら、ゆっくりと移乗の動作を行う、これが中々難しい。

「お身体、支えますね。痛いところはありませんか」

一つひとつの手順を丁寧に確認しながら進めた。終わったとき、田中教官は少しの間の沈黙後に、

「……よくなったね」

一言だけだ。だがその一言に、これまでの一か月間のすべてが報われた気がしていた。

試験が終わったあと、田中教官に呼ばれる。

「マリアさん、最初の頃と比べて、随分変わりましたね」

「先生のおかげです」

「いいえ、あなた自身の努力です。厳しくして悪かったとは思っていません。でも、辛かったでしょう」

「はい……。でも、今は理解できます。全部、必要なことだったって」

田中教官は、口元を緩めた。

「これから配属される施設でも、大変なことがたくさんあると思います。でも、あなたなら大丈夫。よく頑張りましたね」

涙をこらえることができなかった。

日本に来て初めて、自分が頑張ってきたことを誰かに認めてもらえた気がした。

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